大阪高等裁判所 昭和28年(う)178号 判決
論旨に対する説示に先ち破棄差戻前の控訴判決に於て問題となつた本件控訴申立の適否につき案ずるに、本件控訴申立書には、被告人の表示及び控訴申立人の氏名が共に、被告人の実子なる沢野安一名義になつてはゐるが、当審に於て取調べた証人二村辰治郎同沢野安一及び被告人の供述に依れば被告人は原判決に対し控訴すべくその手続を司法書士なる二村辰治郎に依頼し、同人に代書して貰つたのが右控訴申立書なるところ、右二村司法書士が該申立を代書する際被告人名及び控訴申立人を沢野徳一となすべきを誤つて沢野安一と記載し、被告人も右誤記に気ずかずして、自らこれを原裁判所に持参提出したものであつて、沢野安一は何等関与してゐないものであることが認められるから、控訴申立書に右の如き誤記があつても、これを本件に対する被告人の控訴申立書と認むるを相当とする。もつとも右申立書には被告人の署名がなく、二村司法書士が代書したものであるのに、その旨の記載及び代書者の署名押印はないけれども、この附記を要することにした立法趣旨は書類作成の真正を保するにあるものなるところ、本件は被告人の意思に基き、その控訴申立書となす目的で真正に作成せられたものであることが明らかであるから、この附記のない一事を以てはこれを無効とするに由ない。然らば被告人の本件控訴申立を適法と認めて審理を始める。